あれは何年前の事だっただろう。
はるか昔の事のようにも思えるし、つい昨日の出来事だったようにも思える。
当時、俺はとあるIPを原作としたオンラインゲームの開発と運営に携わっていた。
幸い、バージョン管理ツールとオンラインドキュメントツール、それとSlackのおかげで、
俺はただの作業員からプロジェクトマネージャーへ役職が変わった。
運営中のある時、ゲームの原作であるIPの映画が金曜ロードショーで放送される事になった。
1週目と2週目は問題なく、普通にただのIPファンとして酒を飲みながら金ローを楽しく観ていた。
3週目も勤怠を切り、酒を飲みながらそれまでと同じように金ローを観ていた。
酒が随分まわってきて、映画も面白くなるタイミングに差し掛かっていた。
そんな時に事件は起きた。
そんな感じのメッセージだった。
SNS担当者には緊急メンテの告知の依頼、文面の確認、それらを酔っ払った状態でやっていた。
サーバーチームから作業完了の報告を受け、QAを通して問題なければメンテを開ける旨をチームに周知した。
ずっとSlackでメンションを飛ばし続けているが、スタンプすら反応はなし。
何度も何度もかけまくった。
そりゃそうだ、今日は金曜の夜だ。
仕方なくサーバーチームと協力し、一通りの動作確認を終えると、メンテを開けた。
その後しばらく状況を監視し、結局金ロー鑑賞どころではなかった。
その晩の事だけではない。
何か問題が起きていないか?誰かがメッセージを送って来ないか?
日曜の夜突然上司から重要なメッセージが来ることも度々あった。
怯えていた。明らかに今思えば当時の俺はいつどのタイミングで来るかわからないSlackに怯えていた。
…そうやって怯え続ける日はあっという間に終わった。
サービス終了と共に契約を終了した当時のインフラリーダーと久しぶりに飲む機会があった。
あの時俺は酔っ払っていた、支離滅裂な内容の文章を送っていたかもしれない、
的確な判断と行動が出来ていなかった、それなのに事態を収束させてくれた事に今でも心から感謝している、と。
「え、俺さん酔ってたんですか?全然気づかなかったですよ。」
…まあいい、まあなんでもいいだろう。
さて、サービス終了後、俺は燃え尽き症候群を回避する為に2週間くらいまとめて有給を取得した。
既に別プロジェクトに配属されていたが、今なら取得しても問題ないと思ったタイミングだったから取得した。
そこでゆったりと時間を過ごせば燃え尽き症候群は回避出来るはずだと俺は思っていた。
俺宛のメッセージではない。
開発からサ終まで約4〜5年、早朝も夜間も休日も全て注ぎ込んでいたプロジェクトが終った後に取得したたった2週間の休暇。
それさえも許されなかったのか。
俺の知らない所で、俺になんの相談もなく。
メンタルクリニックで処方された薬が原因なのか、単に疲れていただけなのか、
毎日が眠くてずっと居眠りをしていた。
重要な会議中でも、重要な取引先との会議中でも、俺はずっと寝ていた。
追い出し部屋と言っても、その頃仕事がなかった俺の追い出し部屋は自宅の6畳一間のマンションの部屋だった。
ある日俺は何を思ったのか、いや、何も思えなかったからなのか、
眠気を回避する為に飲まずに貯めていた処方薬を酒と共に大量に飲んだ。
身体が全く動かず、救急車を呼びたくてiPhoneを操作したが119が打てなかった。
意識も朦朧としていたので、救急車の番号が119なのかさえよく、わからなかった。
なぜか声も出なかった。喋りたいのに喋ることが出来なかった。
到着までの間ずっと俺に話しかけて来たが、あれは意識を保たせる為だったのだろう。
部屋の鍵を誰がどうやって開けたのかわからないが、
意識が戻りSlackを確認すると、その日は東京ゲームショウの日だった。
俺は自社ブースの案内スタッフとして早朝から幕張メッセに行かなければならなかった。
Slackには「俺さん今どこですか?」というSlackが届いていた。
俺は「事故に遭い病院に居ます、TGSには参加出来ません」とだけ返信した。
そんな感じで、もう潮時だったのか、会社からの退職勧奨に応じ俺は無職になった。
先日、前職を退職済みの元同僚と久しぶりに会う機会があった。
なぜかその日はお茶を飲みながら話をした。
彼女も同じような事を言っていた。
「退勤した後も、退職した後も、ずっとチャットツールばかり気になっちゃうんですよね。」
と。
アルコールやドラッグのような、一時的な快楽を求めるものによる依存症じゃない。
そうだ。
一命を取り留めた直後に、一番最初に取った行動が「Slackを見る」
だったんだよ。
本当は、もっと他にやるべき事があったんじゃないのか?
人間として…
さて、昨今ではコロナも落ち着いたのか、職場回帰が進んでいると聞く。
そういった時間をビジネスチャットツールに割いている人はどのくらいいるのか。
24時間365日運営しているゲーム、アプリ、システム、サービス、それらの類の担当者は大勢いるが、
彼ら彼女らは「ビジネスチャットツール依存」状態になっていないのか?
今なっていないとしても、この先罹患しないと言えるのか?言い切れるのか?
もし、これを読んでくれた人の中で、ビジネスチャットツールを常用している人が居たら、
どうか俺のようにならないで欲しい。
しかし依存症として定義も認識もされていない上に医学的根拠も何もないこの「依存症のようなもの」
わからないんだ。
申し訳ない。
だがどうしても俺のような末路には行き着いて欲しくない。
もし偉い人、精神科医、そういう立場の人がこれを読んでくれたのであれば、
今から防止策を考えてくれないだろうか。
どうしても俺のような廃人を増やしたく無いんだ。
無能ジャップに哀しき過去と現在と未来・・・
フリー(個人事業主)だと、業務時間終わったらslackにせよteamsにせよ絶対開かんけどなぁ 責任ある立場の人は大変や
うーん、現代のおとぎ話に見えるけど。 本当に頑張って稼げたあげく体も壊しているのなら 一度slackをアンインストールして眠らせ、 新しい端末にdiscordいれたりするのはどうだろう。
生きててよかった